
― CRAFT WORKとしてはかなりの空白期間をおいてこの新作『げみにずむ』リリースに至った経緯をおおまかに教えて頂けますか?
旭「前作『さよならを教えて』(CRAFTWORK/2001年作品。以下『さよ教』)の20周年イベントというのを、私が主催で行ったんです。LINEスタンプやグッズ展開など、10数年かけて『いやファンいっぱいいますから、新作待ってますから』って出来る限りの色んなアピールをしたんです。それがきっかけの中の一つにはなってるのではないかと」
― すごい、ファンの鑑ですね…!
旭「とにかく目の前に熱量の高いファンの方がいっぱいいる事を見てもらって、そこでもう一回ゲームを作りましょうとしつこく言い続け、自分も精進し続けたことが今回につながってれば嬉しいですね」
― その想いが長岡先生に届いて良かった…
旭「一応自分もプロなので、即戦力になれるんですとアピールし続けてました。そしたら、ある日長岡先生から『企画書』がポロッと届いて」
― では『げみにずむ』は最初から長岡先生独自発案の企画だったんですね
旭「はい。長岡先生はご自分の企画じゃないと多分あまり動かれないというか、乗ってくれないと思います(笑)」
長岡「これは原画集にも書いてる内容なのでご存じの方もおられるかとは思いますが、Geminismの企画自体は『さよ教』の後に立てていた「リンクス」という企画が元になってます。ゴスロリネコミミの双子妖怪姉妹(精神感応付き)が夜な夜な都会のジャングルで血みどろのキャットファイトをする内容で、販売会社様には鼻で笑われて一蹴された企画でした。そんな四半世紀前の記憶を元に、制服少女が長物ぶんぶん振り回すビジュアルはみんなお好きでしょうオレも好きといった感情やら、リンクスでは曖昧になっていた戦いの主催者設定や動機など盛り込み、どうせなら主要登場人物全員双子にしてバディモノの要素を入れようだとか、超常の人達の普段の生活や苦労などを盛り込んでみたり……と要素を足して構成しました」
― 長岡先生の趣味嗜好てんこ盛りの企画だったと
長岡「はい、あとは作品として完成まで走れないとどうにもならないので、現実を鑑みて企画そのものの奥行きはなんとか保ちつつストーリーや舞台はコンパクトに調整したり、キャラクターもあまりに複雑な服装だと作画コストが跳ね上がるので線を減らしたり。企画書の段階でかなり調整していましたね」
― そして制作が進み、2023年に無事発売と。発売当時のファンの皆さんの反響とか、いかがでしたか?
旭「延期などしてて、完全に無事ではない感はあるんですけど、出せてよかった。やっぱり、あの『さよ教』のメーカーが!? っていう反応は多かったです。流通の方もそういった推し方して下さってましたが「まさか生きているなんて!」みたいなオバケ見た!みたいな反応は結構ありましたね」
― SNSなどでも当時は話題騒然といった感じでした
旭「うーん、SNSの方々って、紙一重で。もちろん言及してくださるだけでも嬉しいんですけど、実際言及するだけ、みたいな方も多い。話題になっているから話に乗るけど、でもプレイはしてない、とか。そういう反応が多いメーカーです、CRAFTWORKは(笑)。だからあんまり当てにしちゃいけないかな」
― まあ、正直なところアダルトゲームをパッケージで買われる層自体、減少していますよね。自分のPCを持っていなかったり
旭「どうしてもそうですね。私も漫画やシチュエーションボイス作成の仕事でも物を売ることの難しさを強く感じます。連載してる雑誌、連載中に廃刊になりましたからね笑。プレイ環境で言うならダウンロードでできたりもするように頑張りましたけど……今商業ゲームを数字に結びつけること自体やや厳しいなと。自分なりにやれることはやりましたが、げみにずむの為にもっと上手く動けたかもと反省も浮かびます……。」
― それでも今日びフルプライス級のゲームを作る予算があったというのはすごいなと
旭「げみにずむはミドルプライスですが。最初は同人ソフトの予定でした。でも流通さんが大変良くしてくださって、商業ラインに乗せられた感じですね。ありがたいです」
― クラウドファンディングとかは考えませんでした?
旭「クラファンは考えたり提案したことはありますけど……人材不足で現実的ではないかもですね。CRAFTWORKは人がいなさぎて、というか、実質長岡先生のみですし。私と二人で動いてたのがほとんどで。あとグラフィック、プログラムのお二人と、さらにその身内の方に手伝っていただいたみたいな……逆によく完成したなという(笑)」
― ちなみにやっぱり、石埜(三千穂/『さよ教』シナリオ担当)先生もクレジットされてますね
旭「長野県から呼びました(笑) 集中合宿を主要スタッフでして、とても勉強になりました。私が脚本……石埜先生のポジションに着くということで、監修とか、チェックや助言をお願いしました。やっぱり私の名前だけじゃCRAFTWORKファンの人が納得しないところもあるかもしれないと思って、なんなら名前だけでも載せたいと(笑)。凄く協力してくださって、おかげさまでとても良い脚本になったと思います!」
― なるほどー。ちょっと話を戻しますが、ゲームをプレイしたユーザーさんの反応で面白かったものとか、ありますか?
旭「シナリオが読みやすいと言ってもらえることが多いのと、キャラのファンになっていただいた人が多いのかな。「さよ教じゃないじゃないか!」とかの謎の文句もありましたね。そりゃさよ教ではないだろと。私はこの業界、新参なので、エロゲファンの方とか、エロゲー情報を扱っている方とか、『この旭ってヤツが結構功労者なんじゃ?』とか言ってくださる方もいて。私がさよ教の同人誌などを描いて昔からファン活動してた事もリサーチされてたりとかですかね。あとは女性ライターだからどうとかこう……謎評論されたりとか? でも概ね楽しんでくださっていて安心しました。ファンイラストやコスプレなど、すっごく嬉しいタイプなのでそれらも見れて嬉しいです」
― 鋭く見てらっしゃるんですねえ
旭「20周年イベントの時点では、まだ最後に私が『なんとか先生たちを監禁してでも(?)新しいエロゲを作ってもらいたいです!』なんて表明したんですが、そのフラグ回収してるな、とか言ってもらえたり。監禁してないんですけど」
― ではシナリオ担当の旭先生的に、CRAFTWORKの前2作品『for elise ~エリーゼのために~』『さよならを教えて』からの影響は?
旭「影響はすごくありますね、さよ教はこの世で一番好きなゲームなので。前2作を切り離すことはできないですよね。ただ同じことをやっても仕方がないので、意識しすぎないように新しいものを、という気持ちはありましたね。でも過去作ファンの人が喜んでくれるようなギミックは入れました」
― ファン向けのギミックですか、具体的には?
旭「うーん、それはやってみてのお楽しみですね!因みに、長岡先生は私より、過去作と切り離した方が良い、という考え方で硬派に割り切ってらっしゃいました。私の方がさよ教ファンも逃したくない!という姿勢でしたね」
― 確かに。そいういう意味でもこの作品、売り方が難しいんですね
旭「うーんそうですねぇ、エロゲの時点で……。ネタバレとか、今はもうそこまで気にする次元じゃないのかもとは思いますが……」
― そこであえて注意していたことは?
旭「『女性が抵抗なくプレイできる」ことに気を使いました。私のファンの方は女性が多くて。長岡先生とCRAFTWORKのファンも、女性が目立ちますので。もちろん男性向けコンテンツであることは前提で、全性別、初心者の方全て含めて楽しんで欲しいと思いました。これは長岡先生も企画の段階で意識されてて、共通理念としてあります。元から長岡先生のデザインは全て好きですが、女性がコスプレとかしやすいようにとキャラデザされてたのとか、更に凄く良い、流石!と思いました」
― 確かに、男性キャラの淡墨と月白がすごく活躍しますしね
旭「長岡先生の企画も、男性キャラを強く押し出していて、これは頑張ろうと思いましたので、女性が買ってくれるような声優さんをキャスティングしたり……女性って声優買いするんで……月白は、私の過去作でお仕事ご一緒したりした皇帝さんが良いのではと初期からイメージがありました。淡墨はこう……度重なるリサーチの上でダメ元で頼んだらOKいただけました」
― 実際、女性向けとして「イケメンのバディもの」とか言い張れる作品ではありますね
旭「うーん、切り取ってるのは女の子の話ですけど、根幹は普通に男二人の話ではありますよね。これも企画書通りです。あくまで美少女もの作品の範囲で、女性ファンが喜ぶことを目標にしてますので本来のメインユーザーである男性層に向けてやっぱり二人のヒロインを可愛く、当然Hシーンもこの桔梗と深紅が1番可愛く見えるようにしてます。」
長岡「双子の声優さんに頼みたいとは言ったものの本当に居るんだ! と驚いた」
旭「中家さん達双子姉妹の演技はとてもイノセントで、理想通りでした!双子のキャスティングについてはどちらに桔梗と深紅を担当して頂くかで、長岡先生と私の意見がぱっきりと割れました。作品に対して100%意見が割れることはあまりなかったので、よく覚えています。長岡先生のキャスティングで正解だったと思います。でも逆も魅力的だったんですよね。」
― その他、ファン向けに意識したことは?
旭「私にとっては理想のメーカーですが、多分大多数の美少女ゲーマーさんには、CRAFTWORKの作品は『怖い』と思われてるっぽいです。だからなるべく表現を控えめに、という方向に原画も脚本も気を遣ってます。要は身体が◯◯したりしますけど、直接描写は回避する、みたいな。怖くないよ!怖くないよ!と」
― それが良いか悪いかは置いておいて、結構発売後のネットでユーザーさんが「意外と普通だった」なんてコメントされたりしてます
旭「ですね、思ったより読みやすかったとかめちゃ言われてます。どんだけ石埜先生のシナリオって読みにくいと思われてたんだろう笑。おそらく難解である、という印象が強いんでしょう。私の技量が石埜先生にまだ及ばないところが、逆に良い効果を出したかもです。」
― それでも今回ノベライズしてみて、弊社既刊作品の文章と比べるとかなり……特殊な感じです(笑)
旭「そうなんですか? あまり性別で語りたくないんですが、自分が女性ライターということで、そこは活かして、エロゲエロゲした浮世離れしたヒロインじゃなくて、等身大の女の子っぽいピュアな描写を目指してたので、その辺ですかね……?」
― 確かに、境遇とかその人物設定から比べると行動とか言動とかはすごい普通の女の子っぽいんですよね
旭「普通の女の子らしい健気さとか愚かさみたいなのが魅力的に描ければ、と。特に桔梗ちゃんなんかの、頭の回らない少女が懸命に考える思春期の可愛さみたいなのはこだわりです!」
― なんだか普通のエロゲーっぽい?
旭「元から普通のエロゲですよ!さよ教やエリーゼも私は異常なエロゲとは思ってないんですけど…。げみにずむはアクが弱いと思うので、エロゲー初心者さんとかにもやってほしいし、さっき言ったように女性向けが好きな人にもやってほしいですね」
― とすると、やはりCRAFTWORKとしては前作とは意図して傾向を変えている感じですかね
旭「さよ教ファンの方は長岡先生の圧倒的なデザイン力による雰囲気を一番に推してる感じがして、あんまり等身大のヒロイン性とかに重きを置いた作品は少ないから、そこを補完できたらなと。過去と同じことはしない、でも格を落とさないように、と」
― あとは、漫画チックな「バトル」も印象的ですが
旭「漫画的な作りは意識されてます。これも企画書からの長岡先生の構想ですね。百合キャットファイト、私も好きなんで。割と泥臭いしょうもないバトルさせるって企画書に書いてあって、何の疑問もなくそれ良いですねー!と」
― 当時流行ってたバトルロイヤルものとかの影響もありますかね
旭「というより『見世物小屋』かな。これは長岡先生の企画当初から明らかに意識されてましたし、私も大好きなので。文献とかはそれなりに読んでいて。だからそれらを解釈して、作中出てくる口上とか考えたんです」
― ◯◯の女性とか、まさに昭和以前の猥雑な『見世物』ですよね
旭「それが今作品の本質の一つですからね。自分の漫画連載(『殺彼(新潮社)』)でも似たような口上とか出してみたんですが、若い読者がネットで検索して調べて、ヒットしない、どうやらこれオリジナルらしいぜって言ってて。こっちはプロだぞ、と(笑) もう真贋が分かるって世代もいないでしょうし、もちろん私の世代も自分で勝手に見識を深めているだけで、でも好きで失われて欲しくない文化なので」
― そのほかメディア全般で影響を受けたりしたモノってありますか?
旭「たくさんあります。直接的に目指したのが、ド定番ですが横溝正史作品とか。あと、自分が『ひぐらし』関連作を描かせてているのもあり、竜騎士07先生の『うみねこのなく頃に』とか。あとは江戸川乱歩、寺山修司……設定資料集に載ってますので、読んでみて下さい。」
― それでは『げみにずむ』実作業中、スタッフとして長岡先生をどう思われたか、伺えますか?
旭「原画、企画、全部流石でした。ファンだから知ってはいたんですけど、病的に緻密な線がキャラに説得力を出してて、デザインの拘りとディレクションの徹底さで何を描いても配置しても魔法のようにオシャレに仕上がる。間近で仕事を見れて単純に嬉しかったです。私は長岡先生に影響を受けているので、いつか一緒に仕事をするために今までのゲームの資料集とかで紹介されてる文献をバカ真面目に全部余さず読んだ結果、昔は難しく感じた長岡先生達の会話に出てくる色んなネタがスッと理解できたのもなんか嬉しかったです。同じ立場で仕事できて、勝手に受け取ったものを、少しでもお返し出来たらよいなと。丁寧な仕事をとても尊敬し、そのセンスを信頼しています。」
― そして今に至ると。では、此の度の弊社ノベライズについてもお話頂きましょうか
旭「今回のノベライズでは、とにかく書き下ろしを書けたのが良かったです。どうしてもゲーム開発大変すぎて、すべてを入れ切れなかった感覚はあって。勿論ゲームげみにずむは完成してるのですが、ユーザーさんからも「エンディングの後どうなるの」「続編希望」みたいな意見は多かったんです。そこでこのノベライズの話をいただいて、であればその「続き」、ちょっとであれあのキャラ達をまた動かせるのが嬉しかったです。なので全編終わった後のシーンを少し足させていただきました。」
― 確かに、原作ゲームファンへのエクスキューズ的な意味合いは感じました
旭「私はキャラへの思い入れが強くあるので。この四人のキャラクターを愛してくれた人になるべく喜んでほしい。書き下ろしで色々感じ入ってくれたら嬉しいですね。」
― 長岡先生的にはそこは重視しないけれど、ことキャラに関わる部分は旭先生に一任していた?
旭「少なくとも、長岡先生が不得意なキャラをかなり補えたと思います。例えば月白とか桔梗は私は台詞がすらすらでてくる得意なタイプのキャラです。逆に長岡先生は淡墨と深紅の方が動かしやすい。私は淡墨に苦戦してました。バランスが良かったのではないかと? 基本的に凄く自由に書かせてもらいました。月白とか、企画書には『チャラ男』しか書いてなかったですし(笑)」
― そういう自分の趣味を、ノベライズで活かしていただけましたか
旭「私が大事にしているキャラのドラマ、関係性、感情、そして死(完結)を更に補足出来たつもり、です。本編執筆から時間たってましたが、変わらず男二人の掛け合いが可愛く書けました……おそらく」
― そそこは満足と。女の子たちについてはどうでしょう?
旭「桔梗も深紅も、この子たちにはまだ恋愛は早い、みたいなところから描ければいいなと思って。でもHシーンはしっかりあって、プレイも結構アブノーマルで。ただ月白と深紅はセックスしていても友達に着地して、逆に淡墨と桔梗はセックスしてないけど恋愛に振れるという対比は描けるよう頑張りました」
― 二人のヒロインを明確に差別化しようという意図があったわけですね
旭「二人に自立心を気付かせたかったというのはすごくありました。そう考えていくと結局、自分の中では今作は人間ドラマであり群像劇、四人とも主役のつもりでしたね」
― そういえば弊社レーベルでは「アダルト向けノベル/官能小説」として発売されますが、作中のHシーンに関して拘った部分などは?
旭「H描写については、割と素人のまま書かせていただいて。めちゃくちゃ難しかったんですけど、強いて言うなら無知な少女である視点に矛盾しないエロ、が売り?ですかね。例えばオナニーシーンとか、少女の知識なくて白痴っぽい感じに萌えてもらえればいいな、みたいな。そういう子がいきなり淫語話すんじゃなくて、あくまで彼女の語彙力の中でその興奮を言い換えたいんだけど……という。イノセント・エロと言いましょうか、品が良くてやっぱり女性が読んでも不快感覚えないシーンになるよう気を配ったつもりです」
― では最後、今回のノベライズについて、読者(ファン)の方々にメッセージをお願いします
旭「ささやかですが、またこの四人の話が紡げて本当に嬉しかったです、楽しんで下さい!」
長岡「まずはお礼を……ありがとうございました。さよ教で拵えた借金をどうにかこうにかお返ししてから製作費を捻出して企画を立てて座組を組んで制作に踏み切るまで20数年掛かりました。制作者として一応の延命はでき……ていたらいいな、と。プレイしていただいた方、気に入っていただいた方、気に留めていただいた方、重ねてありがとうございました。また20年後にお会いしましょう」
一同「笑」





